紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所
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  イネミズゾウムシ


写真1
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(1)イネミズゾウムシはどんな害虫?

  イネミズゾウムシは水稲害虫であるが、1976年(昭和51年)に愛知県下で初めて発生が確認された侵入害虫である。イネミズゾウムシは、米国南部には両性生殖の個体群が生息しており、また、米国西部のカルフォルニア州には産雌単為生殖(雌のみで増殖する)個体群が生息している。日本に侵入したのは、後者の雌のみで増殖する系統であり、カルフォルニア方面からの輸入干草に混じって侵入したと推察されている。

  イネミズゾウムシの越冬世代成虫が、田植え後間もない稚苗や直播イネの葉を甚だしく食害すると(写真1)、欠株となって減収する。また、幼虫はイネの根を食害し、食害がひどくなると、手で株を押すと倒れるほど根量が少なくなる。成虫が稚苗1株当たり0.5頭いると成虫と幼虫による加害により約5%減収すると報告されている。イネミズゾウムシ成虫が多数越冬している雑木林わきの畑に陸稲を栽培すると、芽だし苗が食害されて株数が減少する被害を生じる。

写真2
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(2)イネミズゾウムシの生活史

  イネミズゾウムシの成虫は、水田近くの雑木林や土手の落ち葉の下や土中にもぐりこんで越冬する。東海地方では、3月には既に休眠覚醒しており、4月に入ると活動を開始し、越冬場所のササなどのイネ科雑草の葉を食べて過ごし、飛翔筋を発達させる。

  水田にイネが植えられると飛翔あるいは畦畔からの歩行によって水田に移動し、稚苗の葉を葉脈に沿って食害し(写真2)、イネの葉鞘に産卵する。7月下旬から新成虫(第1世代成虫)が現れ、イネの無効分げつの若い葉などを摂食し、飛翔筋を発達させた後に、水田周辺の雑木林や土手などに飛翔移動し、落ち葉の下や土中にもぐりこんで夏眠し、そのまま越冬する。


(3)発生時期の予測

  イネミズゾウムシの発生時期を的確に予測することの実際的な意義はどこにあるのだろうか。本害虫は、東海地方では5月から6月にかけて越冬世代成虫が水田に侵入してくる。イネミズゾウムシの薬剤防除法としては、カルボスルファン粒剤、イミダクロプリド粒剤、フィプロニル粒剤のいずれかの育苗箱施用が有効である。特に、後の2剤はウンカ類との同時防除が可能なので、九州などのトビイロウンカの常襲地域では長期残効性農薬として広く使われている。したがって、これら地域では、イネミズゾウムシの発生予測は現在のところ実用的には必要ない。

 しかし、ウンカ類の常襲地域でない場合には、長期残効性農薬の育苗箱施用は、過剰防除になりやすく、薬剤抵抗性害虫の発生の問題や、コスト的な問題もある。このため、粒剤処理をせずに、発生が多い場合に散布剤を行うという防除法の場合に、本害虫の発生予測が役に立つ。また、本害虫の生息密度の調査を行う場合に、調査時期と相対的な発生量との関係を知ることが重要である。


(4)発生時期の予測方法

 ア.水田への飛来時期
 成虫が水田に飛来するのは、成虫の飛翔筋が発達した後であり、越冬世代成虫の場合には、3月以降の有効積算温度が約110日度(発育零点13.8℃)になると、全体の50%の個体が活発に飛翔し水田に侵入すると予測される。成虫の飛翔は、越冬世代成虫の場合には夕方の日没時から真っ暗になるまでの間に、新成虫の場合には夕方真っ暗になってから宵の口に行われる。この時刻に気温が20℃を下回ると飛翔しない。

 イ.雑木林での出現時期
 成虫が越冬場所である雑木林に越冬から覚めて出現する時期を飛翔筋の発達程度を指標として予測できる。ただし、成虫はササなどに登って摂食するものの、気温が低い(20℃未満)と植物に登らず、調査に引っかかりにくくなる。従って、水田侵入前の雑草での発生量調査は、日中の気温が20℃を超える日に行う必要がある。


(5)発生量の予測方法

 ア.上記の発生時期予測法により、毎日の有効積算温度と飛翔時刻の気温に基づいて飛翔個体率を求める。一方、ウンカ用空中ネットで毎年イネミズゾウムシ成虫を捕獲する。有効積算温度と気温(20℃以上で飛翔)に基づき、飛翔個体率を推定し、ネットによる実際の捕獲数と比較するが、特に、25%推定飛翔個体率、50%飛翔個体率の時の累積捕獲数を比較して、発生量の多寡を年ごとに比較する。この方法では、25%飛来時期および飛翔ピーク時(50%飛翔時期)の相対的な発生量を比較してもよい。

 イ.水田周辺のイネ科雑草の本害虫による食痕数を調査する。毎年、調査方法を同じようにすれば年ごとの多寡を比較することができる。この調査を行う際に、上記の発生時期予測法と併用することによって、それぞれの調査時期における食痕数の意味を一層正確に知ることがきる。

 ウ.発生時期予測の実際
 発生時期予測を行うためには、3
月以降の毎日の最高最低気温、1日の最高最低気温から毎時の気温の推定(例えば修正余弦法を使用)、修正余弦法から成虫の飛翔時刻の気温を推定する。これらを組み立てて発生時期の予測を行う。すなわち、有効温量を1時間ごとに積算し、1日の有効積算温度に変換する。そして、毎日の有効積算温度を累積飛翔個体出現率曲線式に代入し、飛翔時刻の気温を加味して、累積飛翔個体率(ほぼ水田侵入率に相当する)を求めることができる。

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